会員からの投稿

若手研究者支援削減について

井家晴子会員投稿 2009/11/26

皆さま、

連日、マスコミをにぎわせている事業仕分けに関してです。

事業仕分けにおいては、若手研究者育成費に関して「博士の生活保護」、「ここにそんなにお金をかける必要なくて、自然淘汰に任せればいいのではないか」などと批難され、1/3〜1/2カットされるという評価コメントが出されました。確かに、まだ職についていない普通の若手研究者は、生活保護をもらってもおかしくない月収で、非常勤講師をしたり、塾でアルバイトをしてやっと生きている状況です。

こういった鬱々した状況におかれても若手には意欲にあふれた優秀な人たちが大勢いて、そういう人たちが「公募」で高い倍率を経て研究費を勝ちとり、一生懸命に研究生活を維持している状況なのです。これは 公共事業などとは大きく違う点です。このように将来性があって今後日本に利益をもたらす人たちに投資しないでつぶしていくなんて、いったいどんな未来が日本にあるのでしょうか。

私の周囲の野心的で優秀な若手研究者たちには、職に就いていたとしても、今回の件で日本に明るい未来を見いだせないとして、将来的には日本を離れようと考えている者がほとんどです。今後、優秀な若手研究者がことごとく去り、そして育つ土壌もなくなった国に一体何が残るのでしょうか。

以下、京都大学の菅原和孝先生から許可をいただき先生からのメールを2通転送致します。
一通目は文化人類学会評議員に送られたもの、後に続く二通目は京大の人間環境学研究科の若手研究者、学生たちに向けて対応策を提案されたものです。

まだ文系研究者には事業仕分けの現状はほとんど知られていない状況です。
菅原先生のメール(転送)を読んで初めて状況の深刻さを知り、学会が動き始めているという状況だそうです。

組織だって動くことはすぐにはできなくとも、近日中に個別にでも数多くの抗議声明を以下の政府関係各所に送ることに大きな意味が
あると思いますので、どうぞご協力いただければ幸いです。

井家晴子(Haruko INOIE)
日本学術振興会特別研究員(PD)
京都大学人文科学研究所

第23期評議員各位

前略

このメールが学会長、理事会には届いていないのであれば、大至急、上杉さんのほうから、ご転送ください。
人文系学者の反応がとても鈍いので、手遅れにならないうちにと、焦ってお送りします。マスコミ報道が偏向しているので、まだご存知ない方も多いのでは、と危惧しています。

先週、金曜日の仕分け会議で、若手研究者育成経費(科学研究費若手S、A、B;特別研究員研究奨励費;学術振興会特別研究員支援)を1/3〜1/2に削減するという恐るべき評価コメントが出されました。

このような暴挙が現実化するならば、もはや、文化人類学における次世代育成は不可能です。わたしの周囲の特別研究員、院生たちのあいだには衝撃波が走り、もう学問などやっていても仕方がない、死ねとう言うのか、という絶望的な声があがっています。よって、学会長・理事会・評議委員会に緊急の要望をいたします。

すでに迅速な抗議行動を起こした生物系学会の例を参考にして、概算要求がまとまるであろう、1週間以内ぐらいのあいだに、内閣総理大臣、文部科学大臣宛に、この削減計画に対して強い抗議を行なっていだだきたいと考えます。さらに、人文系の関連学会に対して、この抗議に賛同してもらうように働きかけていただきたく存じます。

以下、三つの基本資料のサイトを掲載します。

  1. 仕分け会議該当箇所書き起こし
    http://mercury.dbcls.jp/w/index.php?%BC%E3%BC%EA%B8%A6%B5%E6%B0%E9%C0%AE%A5%C6%A5%AD%A5%B9%A5%C8
  2. 仕分け会議評価コメント (*pdf)
    http://www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/h-kekka/pdf/nov13kekka/3-21.pdf
  3. 生物系諸学会の内閣総理大臣/文部科学大臣宛の抗議声明
    http://bsj.or.jp/osirase/osirase_open.php?shu=1#278

なお、私自身は現在、体調不良につき、自分で抗議の趣旨を書く余裕がありません。ご参考までに、わたしの指導するPDなりたての元院生が、民主党に送った抗議文を転載いたします。


====以下転載===

文化人類学でポスドクになりたての者です。
仕分け会議を拝聴させていただきましたが、ひどい茶番でした。
なぜあそこで説明しているのが、国家としてのビジョンを持たず、科学・学問研究の意義のかけらも理解していない無能な役人なのですか。
あそこで説明するべきは学術会議の人間ではないのですか。
そしてなぜあそこでムダを追究しているのが、国家としてのビジョンを持たず、科学・学問研究の意義のかけらも理解していない上に科研費や学振特別研究員制度がただの雇用対策だと公言してはばからない、バランスシートを見るしか能のない人間なのですか。

学問や科学・技術研究は利益に直結しない壮大な規模の「ムダ」の上に成立しています。
資源小国はあらゆる意味での知的生産によってしか成功し得ないのは資源小国であるオランダなどを見れば分かります。
なのに将来の・今の知的生産を担うための人材への投資を「ムダ」として削減するとは何事ですか。
あのお金は雇用対策ではなく、知的生産への投資です。
おそらくすでに厖大な抗議が来ているのではないかと思いますが、私の周囲の優秀な研究者で、あの会議の結果を見て国外へ逃げることを考えなかった人間はいません。
私もあの仕分け会議までは日本で研究するつもりでしたが、もはやとてもこの国でやっていこうという気にはなれません。
自民党のポスドク一万人計画を上回る世紀の愚策を実行に移す前に科学技術や学術振興関連の予算をもう少しまともに見直して下さい。
民主党を信じて一票を投じた人間として、心からお願いします。
もしこのまま仕分け会議の結果が通ったら、私は民主党が詐欺師集団であると考え、永久に一票を投じることはないと思います。

===転載終わり===

一言、つけくわえれば、もともと将来計画を抜きにして、大学院生の定員を増大させたのは、文部科学行政の大きな失策でした。
今後の少子化傾向を考慮しなかったことにより、大学・研究機関の空きポストは著しく不足し、研究職への就職困難を若い世代に押し付けてきました。さらには、奨学金返還の免除職規定を廃止したことも、若い研究者たちの大きな不安を引き起こしています。

学術振興会特別研究員は、この困難な状況下で、未来の学術を担う青年層を少しでも支援しようとする、ぎりぎりの生命線的事業です。これをあたかも「モラトリアム人間は自然淘汰に任せ滅びるにまかせ」というかのように結論する権力者たちの無知蒙昧・冷酷無残は、言語を絶するものです。わたし自身、この国で学問を続けることがつくづく厭になってます。

学会賞選考といった儀礼以上に比較にならない緊急性を帯びた、われわれの学問の死命を決する問題だと思います。

以上、よろしくご審議のほどをお願い申し上げます。


続きです。

転載させてもらった某氏の抗議文だけでは、残念ながら、まだ説得力に欠けると思います。

仕分け会議での仕分け委員と文科省官僚とのやりとりを一つずつ追って、両者それぞれの不当な現状認識や、事実関係の誤認(や虚偽?)を実証的に批判する作業が必要かと思われます。すでに、生物系の声明では統計データ等も引用してかなりの程度、やっていますが、文化人類学からも独自の視点からの批判が必要ではないでしょうか。

本来、自分がすべきことなのかもしれませんが、長年の慢性的疲労が溜まったのか、現在、頸椎間の縮みによる神経束圧迫+低音障害性感音難聴という二つの病により、整形外科と耳鼻科に通院中です。明日からはD論予備ゼミ、学部英語演習などがあるので、今日はその準備に追われています。ですから、かなりの労力を食うであろう作業をボランティアですることができません。

そこで、現在PD、またはDC1/2、または来年度申請予定の特別研究員・大学院生のみなさまのボランティアで上記作業を早急に行なうことを提案(推奨)します。緊急にML上でワーキンググループを立ち上げてもよいかもしれません。もしこれにご協力いただけるのでしたら、以下の二点にご留意ください:

  1. 感情的にならずに、あくまでも仕分け当事者たちの認識の誤謬(学問とは何かを含めて)、事実関係の誤り、論理的に変なところ、を冷静に抉り出す。
  2. 反駁に役立つ統計的データなどがあれば参照・引用する。

どのくらいで仕上げれば政治的に有効なのかは、わたしにはわかりません。しかし、万一、概算要求に間に合わなくても、われわれの見解をきちんと整理しておくことは、将来の闘いのために不可欠な土台となるでしょう。

できあがった文章をどのように使用するかは、確たる方針はまだありませんが、少なくとも以下の二点は必須でしょう。

  1. 文化人類学分野の大学院生/特別研究員全体の抗議文として内閣総理大臣・文部科学省に送る。全員の賛同が得られない場合は、「有志」で。時間が許すなら、学内他分野の院生組織に働きかけることも考えられる。
  2. 同じものをマスコミ各社(とくに新聞社)に送る。
  3. わたしが、評議員会MLに送り、学会全体の見解としてHPで公表するなど、の手段をとるよう働きかける。

補足情報:すでに国大協も抗議声明を出しているようですが、わたしはまだ見ていません。

ご検討をよろしくお願いします。
すがわら


●文部科学省事業仕分け対象事業についての意見募集 (12/15締切)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm
題目:13-競争的資金(若手研究育成)(事業番号3-21)
鈴木寛 副大臣・高井美穂政務官
suz-tak@mext.go.jp
中川正春 副大臣・後藤斎政務官
nak-got@mext.go.jp