7月18日に参議院外交・防衛委員会で開かれた公聴会で以下のような意見陳述を行いました。

15分間の公述の中では、法案を推進する側の人たちによってしばしば、「日本は石油の9割を中東に依存しているのだから、イラクの復興に参加しないわけにいかない」「イラクの復興に参加することは中東全体の安定につながる」という議論が用いられることに着目し、自衛隊のイラク派遣は本当に中東の安定につながるのか、中東の人たち自身は日本に何を期待しているのか、を検証することをめざしました。また、参考資料として、「在京中東大使館へのアンケート結果要約」も配布・紹介しました。これは、公聴会に参加するにあたって7月16日から17日にかけて急遽おこなったアンケートですが、ここからは(1)中東諸国の多くがイラク戦争は国際法の埒外でおこなわれた戦争だと考えていること、(2)現在、イラクに存在している米英による占領体制の正当性に関しても疑問を持っていること、(3)中東諸国が日本に期待するのは、圧倒的に非軍事面での貢献であること、が明らかになります(朝日新聞7/25夕刊に紹介記事有)。

なお、公述の内容は現在、参議院の議事録のHP
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/main.html
でも見ることができますが、配布資料の方はアップされていません。

また、同日の公聴会には板垣雄三さん(日本中東学会元会長)も参加され、また衆議院のイラク特措法案特別委員会(7月1日)参考人質疑には池田明史さん(東洋英和女学院大学)、大野元裕さん(株・ゼネラルサービス、日本中東学会会員)が参加され、その公述内容は、衆議院会議録HP
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
に掲載されています。


栗田禎子公述要旨(於・参議院外交防衛委員会公聴会・2003年 7月18日)

〔はじめに〕
検討の課題
・憲法の平和主義の原則との整合性の問題
・イラクの状況を考えたときどのような意味を持つか; 日本・中東関係全体に与える影響の問題

(1) イラク戦争の正当性をめぐる問題
「国連決議に基づく戦争だった」という理解・・国際社会の一致を見ていない多くの国が問題の平和解決を求め、戦争は「国連決議に基づくものではなかった」とする立場に立つ(含中東諸国)
(2) 占領体制の正当性をめぐる問題
「国連決議1483は占領体制を正当化している」という理解をめぐっても多くの議論(含中東諸国)
「占領が存在するという事実を述べ、占領軍の義務を果たすよう求めたものにすぎない」
「現在の態勢はあくまで米英占領軍中心で、国連やイラク人の役割を極力排除しようとするもの。国連やイラク国民が中心的役割を果たす態勢に作り直すべき」
・・米英占領体制への協力を中心に据えた法案を成立させることの意味
(3) 米英占領軍による「安全・安定確保活動」を「支援」することの問題
占領軍による「安全・安定確保活動」=占領体制に対するイラク国民の抵抗の弾圧・排除のための軍事行動
占領体制への国際的疑義が出されている状況で、占領軍の側に完全に身を置き、「安全・安定確保活動」を支援することの問題性
〔まとめ〕
イラク問題が中東全体にとって持つ重要性=関与にあたっては中東諸国・中東の人々の意見を踏まえるべき。
中東の多くの国々・国民によって戦争が国際法上の根拠を欠いたものと考えられ、その後の占領体制の正当性も疑われている状況で、占領軍の軍事行動への協力を中心に据えた法案を成立させることは問題。
中東諸国が期待しているのは圧倒的に医療・人道、インフラ再建等の平和的支援。

在京の中東諸国の大使館に対するアンケート調査結果要約(2003・7 ・16~17)
文書回答・・トルコ・シリア・スーダン・パキスタン・カタル
面談・・チュニジア(大使)、ヨルダン(大使)、サウジアラビア(一等書記官)

内容・・法案自体への意見は聴かないことを前提にして、一般的参考意見として以下の点についてのコメントを求めた。
(1) イラク戦争に対する貴国政府の立場はどのようなものでしたか?
(2) 戦争の結果イラクにもたらされた現在の状況(連合軍による占領)に対する貴国政府の立場はどのようなものですか?
(3) イラクの復興に関しては、日本に最もふさわしく、期待される支援のあり方はどのようなものと考えますか?
(4) 日本は中東で一般にどのような役割を期待されているのでしょうか?
1.イラク戦争に対してどのような立場をとったか?
・問題は国連を通じて解決されるべきと主張した。民主化は支持するが、適切な方法で注意深くおこなわれるべきだった。地域全体の安定・安全に影響が出ている。(サウジアラビア)
・戦争には強く反対した。国連の枠内での平和的解決を要求した。戦争はイラク国民を苦しめるだけでなく、イラクの安定、ひいては地域の安定をも脅かすことが分かっていたので反対。( チュニジア)
・国連中心の平和解決を主張した。国連安保理決議1441に賛成したのは、問題の平和解決に役立つと考えたからである。(ヨルダン)
・イラクの安定と統一の維持を願う立場から戦争・占領に反対した。(シリア)
・問題は平和的に解決されるべきと考え、戦争の回避に全力を尽くした。トルコ国民の80パーセント以上は戦争に反対だった。(トルコ)
・国際法違反、国連憲章違反の戦争だった。(スーダン)
・イラクによる国連諸決議遵守を求めるとともに、イラクの武装解除が平和裡に行われることを求めた。(パキスタン)
2.現在のイラクに存在する連合軍による占領体制への立場は?
・イラクの今後はイラク国民が決めることなので、サウジが口出しはしない。占領に対する抵抗が起きているのは(担い手はさまざまだが)当然予想されたこと。(サウジアラビア)
・国家建設を進めるには強力な権力が必要だが、これは正当性(レジティマシー)がなければできない。非常に困難な状況になっている。( チュニジア)
・国連安保理決議1483を支持するが、これは占領を正当化するものではなく、現在のイラクが占領下にあるという事実を確認し、占領者に占領者としての責務を果たさせるためのものと考える。同時に、国連の関与をより拡大すべきだとも要求してきた。占領への抵抗が起きているのは当然予想できたこと。(ヨルダン)
・イラクの安全と統一が守られることを希望。(シリア)
・イラクの統一性が守られる形で、真に全イラク国民の支持を得た政府が作られ、外国軍が速やかに撤退することを希望。(トルコ)
・全外国軍はイラクから撤退し、必要な国際支援のあり方についてはイラク国民自身が決めるべき。(スーダン)
・イラクの主権が速やかに回復され、イラクの一体性が守られることを希望。(パキスタン)
・イラク国民の政府が一刻も早く作られ、イラクが国際社会に復帰することを希望(カタル)
3.日本がイラク復興を支援するとしたら、どのような支援が最も期待されるか?
・電気・水道・下水・医療施設などのインフラの再建が最も必要。(ヨルダン)
・人道的分野(医療・衛生・浄水・住居・教育)の支援を、不偏不党の立場で提供することが望ましい。(トルコ)
・世界第二の経済力を生かした経済援助が望ましい。(パキスタン)
・イラクの復興全体は国連が中心となっておこなうべき。日本は国連機関と協力する形で支援を。(スーダン)
・「アジア=アジア協力」のような形の支援が望ましい(チュニジア)
・イラク再建のためには教育が重要。カタルはイラクの高等教育支援計画を持っているので、日本にも協力を呼びかけたい。(カタル)
〔参考・・中東諸国自体によるイラクへの支援〕
・医療援助をしている。国防省の中の医療部門のスタッフが出向いているが、基本的には非武装。軍隊派遣ではない。人道援助なので襲撃されるおそれはない。連合軍当局(CPA)の管轄下にはない。(サウジアラビア)
・国連の枠組みの中でなければ軍隊は派遣しないという立場から、軍隊は派遣していない。ファールージャに野戦病院を設営したが、機動性に優れているから野戦病院を送ったまで(パレスチナ、シエラレオネ、東チモールにも設営)。スタッフは基本的には非武装。CPAの管轄下にはない。インドも軍隊は派遣しない立場なので、ヨルダン・インドで共同で野戦病院を設営するプロジェクトも立ち上げた。この他、文民の医師の派遣、ヨルダンの病院へのイラク人患者の搬送、「ハシミテ慈善協会」を窓口とした諸外国の医師の派遣等もおこなっている。(ヨルダン)
4.日本は中東でどのような役割を果たすことが期待されるか?
・日本のイメージは非常に良いが、外交・経済的分野でもっと積極的役割を。特に中東和平における「誠実な仲介者」の役割を果してほしい。(サウジアラビア)
・非軍事的手段によって安定を回復するというお手本になってほしい。日本は東南アジアでは経済・技術協力を通じた信頼回復の実績を持っている。(チュニジア)
・日本の経済援助には非常に感謝。経済援助や投資を通じ、中東における平和へのインセンティヴを高めてほしい。(ヨルダン)。
・不偏不党のイメージを守りつつ、存在感を強めてほしい。トルコとさらに協力関係を強めたい。(トルコ)
・中東で果たすべき役割を決めるにあたっては、中東の国々と相談すべき。(パキスタン)。
・中東の人々のメンタリティー、感情を良く考慮に入れた上で、中東の安定と発展に大いに貢献してほしい。(スーダン)

〔要約文責・栗田禎子〕