日本中東学会会員各位

このたび日本中東学会理事会では、「「シリア危機」をどう捉えるか」と題し、以下の「会長所感」の趣旨に基づいて、学会ホームページ上に会員の投稿欄を設けることにしました。このテーマに関する論考・分析・コメントの投稿を歓迎します。
なお、投稿にあたっては、「投稿規程」をご参照ください。

【趣旨】(会長所感)

シリアのダマスクス郊外で化学兵器の使用により多数の死傷者が出たとされる事件をきっかけとして、米国・フランス等によるシリアへの軍事攻撃の可能性が高まっています。軍事介入反対の国際世論も広がりつつありますが、今後の展開は予断を許しません。この問題に関し、これまでのところマスコミ等ではもっぱら攻撃開始のタイミングに関心が集まる一方で、今回の事態の背景や、それが中東という地域全体、さらには今後の世界にとって持つ意味が、多面的に深く分析される機会は少ないように思われます。

シリアをめぐる現在の危機の意味を理解するためには、同国の政治・社会・歴史に関する正確な知識と深い洞察が必要なだけではなく、2010年末のチュニジアに端を発する一連の中東革命以降、域内の政治構造全体に生じつつある変容を分析せねばならないでしょう。「アラブの春」とは何だったのか、その性格・プロセス・担い手を改めて検証し、シリア以外の諸国(エジプト等)での最近の展開とも関連づけて、中東の今後を展望することが必要になるかもしれません。また、こうして変容しつつある中東と「国際社会」の関係、アメリカの世界戦略、国連の役割等も、この機会に深く掘り下げるべきテーマです。「大量破壊兵器」問題とは何なのか、「人道」と「主権」の関係、イラク戦争からどのような教訓を引き出すのか、といった議論も必要です。軍事攻撃がなされた場合、それが長期的には地域全体にどのような影響を与えることになるのか、パレスチナの視座からの分析も不可欠でしょう。そして、では日本社会は中東とどのように向き合っていくのか、を考えてみると、「シリア危機」は、今後の日本政治のゆくえ(憲法改正問題等)とも密接に関わっていることに気づかされます。

このような問題意識から、今回の事態をめぐり、日本社会において中東の政治・社会・歴史・文化の研究に携わる日本中東学会会員各位による自由で多角的な議論が展開される場を提供したいと考え、投稿欄を設けることにしました。中東研究者としての知識と経験、洞察力を生かした、活発な意見交換が行なわれることを期待します。

2013年9月6日
日本中東学会会長 栗田禎子


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