「長期的視野に立った学術研究振興政策の
必要性に関する会長声明」

(2009.12.9 更新)

会長より

「長期的視野に立った学術研究振興政策の必要性に関する会長声明」

長沢栄治(日本中東学会会長)

さる11月11日から27日にかけて、行政刷新会議ワーキンググループによる事業仕分けが実施され、現在、その結果に基づく2010年度予算の編成作業が進められております。
言うまでもなく、国費の適正な支出を図る手段としての事業仕分けについて、一国民としてその効用を認めるにやぶさかではありませんが、すでに多くの学協会、研究教育機関等が危惧を表明しているように、高等教育および学術研究分野において、近視眼的な観点から仕分け作業が行われたことに、強い危機感を感じざるをえません。

とりわけ、文部科学省担当の事業である競争的資金(若手研究)(事業番号3−21)に関する大幅な予算縮減の判断は、きわめて憂慮されるところです。本学会が専門とする中東の地域研究は発展途上の分野であり、学問分野としての高度化の必要性は高く、政治、経済、文化交流などの諸分野に対する応用の豊かな可能性を有していますが、いまだ若い分野であるため研究者は不足しており、若手研究者育成は急務であって、支援の縮減が適切とはとうてい考えられません。同様に、競争的資金(外国人特別研究員・研究者招致)(事業番号3−22)および競争的資金(女性研究者支援)(事業番号3−39)の縮減も、時代に逆行する判断と言わざるをえません。

人文科学・社会科学の分野における研究の成果は、短期的に目に見える形で現れるとは限りませんが、それらの研究の蓄積が全体としての国民の知の水準を支える根幹に関わっていることは明白です。縮減の対象となった競争的資金の獲得競争率はきわめて高く、過去に選抜された研究者は着実にその投資に応える研究をなしてまいりました。しかも、中東研究を専門とする若手研究者には、通常、数年にわたる現地での調査研究が求められ、多くの若手が、ほぼ例外なく大学院の標準修業年限を超えてなお学業を継続せざるをえず、このような厳しい条件を承知の上で、粘り強く研究に取り組んでおります。これらの真摯な取り組みに対し、支援策をあたかも雇用対策や生活補助であるかのごとくみなす仕分け担当者の見識は、まったくもって不充分といわなくてはなりません。

国際的な水準に照らして、我が国の高等教育および学術研究推進の財政支援が、経済活動の水準等に比して充分といえないことは周知の事実です。今回の事業仕分けに示されたような認識の低さが、政財界一般に共有されていることが、その根本的な原因であるのではないと信じて、日本中東学会を代表し、中長期的視野に立った高等教育および学術研究推進のための施策を強く要望いたします。

会員の皆様

今般の行政刷新会議による事業仕分けに関して、長期的視野に立った学術研究振興政策の必要性の観点から、上記のような会長声明を発表いたしました。主に若手研究に言及する形で、行政刷新会議への送付と、文科省の担当宛に送付も行いました。

 会員各位からも、文科省の担当宛に、生の声を届けていただければ、幸いです。
とりわけ、若手研究者の方々の実情に即した意見が、望ましいと存じます。また、所属する機関や、その他の学会での対応も呼びかけていただければ有り難く存じます。

 会員の皆様のご協力をお願い申し上げます。

日本中東学会会長   長沢栄治

会員からの投稿

上記に関連する会員からの投稿を以下に掲載しました。

事務局

若手研究者支援削減について(井家晴子会員投稿 2009/11/26)