日本中東学会

中東研究レポート

いま日本の中東研究にできること―「シャルリー・エブド事件」・「日本人人質事件」後の状況を受けて

日本中東学会会員各位

このたび日本中東学会理事会では、「いま日本の中東研究にできること――「シャルリー・エブド事件」・「日本人人質事件」後の状況を受けて」と題し、以下の「会長所感」の趣旨に基づいて、学会ホームページ上に会員の投稿欄を設けることにしました。このテーマに関する論考・分析・コメントの投稿を歓迎します。

なお、投稿にあたっては、「投稿規程」をご参照ください。

会長所感

1月7日にパリで発生した「シャルリー・エブド」社襲撃事件、また特に1月20日以降急展開し最悪の結果を迎えることになった「日本人人質事件」を契機に、日本の中東研究を取り巻く空気が大きく変化しつつあることが感じられます。

中東・イスラーム世界に対する社会的関心は一見高まりましたが、反面、「イスラーム特殊論」的、短絡的な捉え方が目立ち、日本の中東研究がこれまで積み重ねてきた多面的・実証的な分析の成果が議論に充分に反映されているとは言えない状況があります。中東研究者がマスコミ等に登場する回数は増えても、もっぱら「テロ専門家」的役回りを割り当てられがちで、社会・経済的分析や歴史的洞察に基く、より広い視野からの分析・提言を行なう機会は多いとは言えません。

一連の衝撃的事件を契機に、日本社会にもいわゆる「イスラモフォビア(イスラーム嫌悪)」の潮流が持ち込まれる危険性は否定できません。また、人質殺害事件の際に最近の日本の外交・軍事政策が口実として言及されたり、逆に日本国内では事件を契機に「邦人救出」名目での安保法制整備を押し進めようとする動きが見られることなどを想起すると、今回の事態は今後の日本=中東関係にとっても決定的転機となる可能性があります。日本の中東研究の問題にとどまらず、これまで培われてきた日本=中東関係のあり方、ひいては戦後日本の外交政策や国のあり方全体が――「イスラーム問題」や「テロとのたたかい」ということばが飛び交う中で――急速に変化させられようとしているような状況と言えるのではないでしょうか。

日本の中東研究にとって、また日本=中東関係全体にとって、試練の時期であると言えます。

以上のような状況を受けて、日本中東学会会員が今回の事態を分析し、いま日本の中東研究に何ができるのか、あるいは今後の日本=中東関係はどうあるべきかをめぐり、自由に議論できる場を提供したいと考え、投稿欄を設けることにしました。状況は多面的・複眼的な分析を必要としており、それだけに個々の論考で示される学問的・思想的立場や政策提言等は多種多様なものとなることが予想されます。投稿内容は日本中東学会としての見解を代表するものではなく、あくまで各執筆者個人の研究者としての知見に基く意見の表明であることを確認しておきます。

中東研究者としての知識と経験、洞察力を生かした、活発な意見交換が行なわれることを期待します。

2015年3月10日
日本中東学会会長 栗田禎子