日本中東学会

中東研究レポート

ガザの事態をめぐって

日本中東学会会員各位

このたび日本中東学会理事会では、「ガザの事態をめぐって」と題し、以下の「会長所感」の趣旨に基づいて、学会ホームページ上に会員の投稿欄を設けることにしました。このテーマに関する論考・分析・コメントの投稿を歓迎します。

なお、投稿にあたっては、「投稿規程」をご参照ください。

趣旨(会長所感)

イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区全域への空爆開始(7月8日)、さらに地上戦突入(7月17日)以来、深刻な状況がつづいています。攻撃の直接のきっかけとされたのはヨルダン川西岸でのイスラエル青年誘拐・殺害事件や、これを名目とするイスラエルによる一斉逮捕等に反発してパレスチナのハマースが開始したロケット弾攻勢で、イスラエル側は「テロリスト対策」、「自衛」のための軍事行動であることを強調しています。しかし実際には、人口密集地域であるガザへの事実上の無差別攻撃の結果、犠牲になっている人々の大半が一般市民であることは否定できません。また、そもそもガザが1967年の第三次中東戦争でイスラエルによって占領された地域であること、2005年のイスラエルの形式的「撤退」後も厳しい封鎖下に置かれ、住民が「巨大な監獄」とも言われる劣悪な環境のもとに置かれていることも問題の根底に存在します。

しかしながらこのような事態に対し、エジプト・米国等による「停戦案」の提示、和平調停が試みられているとはいえ、現在までのところ成果は上がっていません。世界各地で反戦集会が開かれ、またイスラエル国内でも勇気ある市民による抗議行動が行なわれていますが、戦争の拡大を阻むには至っていません。イスラエルの暴走と国際社会の無為により、長期にわたって攻撃が放置されるなか、ガザのパレスチナ人は「ジェノサイド」的極限状況に置かれていると言えます。

このような状況は人道上深刻であるだけでなく、パレスチナ問題の今後の展開、ひいては中東全体の政治・社会情勢に大きな影響を与える可能性があります。ガザの状況はエジプト情勢と密接に連動しており、また和平プロセスをめぐる動きはトルコ、カタール等を含む域内諸国間の力学に変化を引き起こすかもしれません。国際法体系や国際政治の今後のあり方に影響が及ぶ可能性もあります。日本=中東関係を考える上でも注視すべき事態であり、また、イスラエルによって行なわれている「自衛」や「安全保障」の名の下の戦争は、今後の日本の対外政策のあり方の問題とも決して無関係ではないでしょう。

以上のような問題意識から、今回の事態をめぐり、中東の政治・社会・歴史・文化の研究に携わる日本中東学会会員各位による自由で多角的な議論・分析、社会への提言が展開される場を提供したいと考え、投稿欄を設けることにしました。中東研究者としての知識と経験、洞察力を生かした、活発な意見交換が行なわれることを期待します。

2014年7月29日
日本中東学会会長 栗田禎子