日本中東学会会員各位

3月20日、米英等による対イラク戦争が開始されました。学会理事会では、下記の会長所信の趣旨により、「イラク問題」について、さまざまな事実や論点を検証し議論するために、学会ホームページ上に会員の投稿欄を設置することにいたしました。現地からの情報の提供や素朴な疑問の提起も歓迎します。

「イラク問題」と中東

 3月20日、イラク攻撃が開始された。多くの中東研究者がある種の無力感を覚えたに違いない。中東研究を取り巻く環境が湾岸戦争、9・11「同時多発テロ」の時とは全く異なったものになったからである。曲がりなりにも、湾岸戦争の時には中東の政治事情が、9・11「同時多発テロ」の時にはイスラーム政治運動が、議論の中心に据えられた。ところが、今回は、戦争へといたる過程において、「イラク問題」と言われながらも、議論は中東やイスラーム世界と関係のない次元で進んだ。一言で言えば、これは「イラク」問題ではなく、「アメリカ」問題である。「イラク」は議論のだしに使われたに過ぎない。日本とのかかわりが議論されるときにも、日米同盟か国際協調か非戦かと短絡した議論に収斂している。その結果、政策担当者や専門家にいたるまで、「独裁」や「テロ」や「イスラーム」といった単純な中東観に基づく議論が続き、複雑な中東の現実が省みられることはない。

 ところが、中東は、パレスチナ問題をはじめとして、近現代の国際政治経済システムにおける矛盾が集積する地であり、その理解のためには、複雑な事件や現象の連鎖を読み解く粘り強い思索を必要とする。それを怠ることは、現在、確実に進行している中東の「周辺化」「ローカル化」を後押しすることになる。中東研究者はそれを座して、見過ごすことはできない。ここ学会のホームページ上に、「イラク問題」についての投稿欄を設け、中東を専門領域とする会員が、戦争へといたる過程を未来にむけて検証し、これを学会の内外に発信していくことを提案する所以である。

2003年3月23日
日本中東学会会長 加藤 博


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